薬物事件

(1) 覚せい剤取締法

(ア) 覚せい剤取締法における覚せい剤とは、フェニルアミノプロパン、フェニルメチルアミノプロパン及びその塩類等のことをいいます。
同法は、覚せい剤及び覚せい剤原料について、その輸入・輸出・譲渡・譲受・所持・使用を規制するものです。
それらの違反行為を営利目的で行った場合には、営利目的でない場合と比べて法定刑が重くなっています。
覚せい剤の「所持」(覚せい剤取締法14条1項)とは、覚せい剤を事実上自己の実行支配内に置くことをいい、「必ずしも覚せい剤を物理的に把持することは必要でなく、その存在を認識してこれを管理しうる状態にあるのをもって足りる」とされています。
覚せい剤の「営利目的」とは、「単に財産上の利益を得る目的をもってなされたことを意味し、一回限りのものでも差し支えなく、必ずしも反復継続的に利益を図るためになされることを要しない」とされています。

(ウ) 営利目的所持の場合、法定刑が「1年以上の有期懲役」となり、
裁判員裁判対象事件になります。覚せい剤事件の勾留率・起訴率は 比較的高くなっており、被疑者段階における早期の身柄開放が難しい犯罪類型です。
覚せい剤の場合、初犯でも起訴されることが多く、但し、初犯の
場合には執行猶予が付されることが多い判決です。
覚せい剤事件では、様々な否認の類型があり、違法収集証拠の 問題も生じやすいので、処分の見通しなどを見据えて慎重に方針を決定する必要があります。
否認の類型として、使用については、全く身に覚えがない、第三 者に打たれた、飲み物に入っていたのを知らずに飲んだなど様々なものが考えられます。
所持については、共同所持の事案では、一緒に住んでいる夫の物で自分は家にあるのを知らなかった、人からもらった鞄に入っていたので知らなかったなどが考えられます。
他には、営利目的の否定や、被疑事実は認めるが入手経路などは言いたくないなどがあります。
否認事件の場合、安易に供述調書を取られることで不利益に働くことがあるため、供述調書を作成する場合は慎重に行う必要があります。
 

(3) 大麻取締法

大麻取締法における大麻とは、大麻草(カンビナンス・サティバ・エル)及びその製品をいいます(大麻取締法1条)。
同法で規制されるのは、栽培・輸入・譲渡・譲受・所持であり、使用は含まれていません。
営利目的の場合に法定刑が重くなることについては、覚せい剤取締法と同様です。
大麻取締法違反は、上述の覚せい剤取締法違反と異なり、使用は罪にはなりませんが、所持が処罰の対象とされている点が特徴的です。

(4) 麻薬及び向精神薬取締法

麻薬及び向精神薬取締法では、モルヒネ、コカイン、ヘロイン、MDMAなどの輸入、輸出、製造、製剤、譲渡し等について必要な規制をしています。
違反行為の対象は、規制対象薬物によって分かれています。違反行為を営利目的で行った場合には、法定刑が重くなるのは、覚せい剤取締法と同様です。

(5) 再犯防止

薬物の乱用を繰り返すと、身体依存と精神依存という状態に陥ります。このような薬物の依存性から、薬物事件は再犯率が高くなっています。保釈や情状の材料としてはもちろん、被疑者・被告人の今後の人生のた
めにも、再犯防止については検討する必要があります。
主な再犯防止策としては、医療機関での治療によって依存症から回復するよう目指す、ダルクなどの自助グループへ参加することで回復を目指す、などが考えられます。
身体拘束されている被疑者・被告人であれば、入院治療のための保釈が認められることがありますので、被疑者やその支援者らと協議し、必要に応じて被疑者段階から準備しておく場合もあります。

(6) 当事務所の試み

薬物事案は、常習性が極めて強い犯罪であり、初犯であれば、執行猶予が付く可能性はあるものの、再犯を起こしてしまう可能性が高い犯罪類型となっております。
当事務所では、早期に保釈請求などを行い、身体拘束を解いた後、被疑者が更生し、再犯を行わないように被疑者と一緒に考えます。
そのように更生に向けた努力を行うことで再犯防止につながるだけではなく、執行猶予判決が付される理由にもなるため、再犯防止をどのように行うかが重要になってきます。

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